ドレスデン国立美術館展「世界の鏡」

評価:★★★★☆

上野の国立西洋美術館にて。美大同級生の友と。
見応えたっぷり! わくわくと胸躍るような美術品と、ゾクゾクするような武器や宝石など、選りすぐりの200点が、みっしりとした密度で所狭しと置かれている。17−18世紀を頂点に栄華を極めたザクセン公国の栄光を今に伝える財宝の数々、そのゴージャスな帝王学と、ある種やりたい放題のミーハー精神(笑)に、驚嘆と感嘆。


ドレスデン国立美術館は、ドイツ東部の古都ドレスデンにあり、12部門からなる世界有数の美術館複合体だそう。
バロック建築の傑作ツヴィンガー宮殿の中にある「アルテ・マイスター絵画館」、自然科学の諸機器による「数学物理学サロン」、東アジアとマイセン産の「磁器収集室」、ドイツ・ロマン派絵画などを扱う「ノイエ・マイスター絵画館」、アウグスト強王の秘宝や贅を尽くした宝飾品が収められた「緑の丸天井」宝物館などなど。
今まで殆ど認識してなかったけど、こんなに夢のような芸術都市が、鉄のカーテンの向こうにあったなんて!


展覧会はテーマごとに7章に分けられ、その時々の王の傾倒した異国芸術への熱狂などが見てとれる方式。副題に「世界の鏡」とあるように、どこかの異国でブームが起こっては君主がそれに大ハマリ。 トルコにハマり、イタリア、ヴェルサイユにハマり、東洋にハマっては、「ウチでもコレやろう!」と真似っこに国を上げていそしむ姿勢は、いっそ微笑ましい(笑)。うんうん。芸術の発展に節操なんていらないよね。マイセンだって、東洋磁器の模造から始まったんだもんね。
・・・なーんてのは、今だからこその曲がった見方かな。マジメに言うと、当時は、芸術や最新の美術工芸品を手に入れる事は、すなわち、最新の技術を取り入れる事だった筈。それは国の発展において、重要な責務でもあったんだろうと思う。しかし、そうして集められたコレクションを見てみると、そういう技術の為とか発展の為とかは置いておいて、とにかく美しくてカッコイイものが好き!これをウチにいっぱい置いて眺めたい!っていうような、ヲタクなコレクターの情熱(笑)みたいなものが、溢れてるように感じる。
つくづく、文化というものは、暇と金のあるヲタクによって作られ発展するのだと思った次第。




【第1章】ドレスデンの美術収集室(クンストカンマー):王が愛した学問の場

私にとって一番新鮮だった章。
16世紀に始まった君主のコレクションの場には、当時最新鋭の粋を集めた科学機器や道具類が集められていたとの事。
唸ったのはその美しさ。王の扱う機器は全て“美しくある事”が求められた為、現代ではその性能だけしか感じさせないような機器が、それはそれは素晴らしい美術工芸品として製作され、王の元に集められていた。巨大な集光鏡の裏には力強く美しい太陽の像が鮮やかに刻まれ、地球儀には当時の憧れや伝説も示すような怪物が記され、測量や天文機器にはその夢が盛り込まれた微細な彫刻がほどこされ・・・そのどれもが、惚れ惚れするような美しさと楽しさと性能を兼ね備えている。
当時、「有能」や「美」や「楽」や「貴重」は、今よりもっと同義語だったんだろうな。それは、今でも真理だと思う。


【第2章】オスマン帝国−恐怖と魅惑:トルコ戦争とトルコ趣味

最もエキサイティングに萌え(笑)た章。
オスマン・トルコの鎖かたびらや盾や刀剣、馬具、め〜〜っちゃカッコイイ!!ああ〜こんなの、あの人やこの人に付けさせたらどんなに素敵かしら!(←ジャニヲタ心の膨張) 
当時は「強さ」も、今より「美」と完全に同義語。強い物はカッコイイのだ!てか、強くなれるのは豊かだからであって、だから美しくなれる。だから、美しい物は強いのだ! この強大な近隣国とは何度も戦火を交えて睨み合っていたのに、いつのまにか気付けばその国の強さと美しさの虜になって、トルコの芸術品のコレクターになってるという・・・なんとも可愛らしい話じゃないか(笑)。
例によって武器も王の扱う物は美しくなければならなかった為(笑)、狩猟用の銃やナイフ、小さな小道具にいたるまで宝石や彫刻が。こりゃ大砲とかも、どうかすると宝石ずくめだったんじゃ?(笑)


【第3章】イタリア−芸術の理想像:ヴェネツィアの風景画、ミラノとフィレンツェの宝石加工技術

イタリアの絵画や美術工芸品にも貪欲に収集の手を伸ばすザクセン公国。現地から職人や画家も連れて来ては、お抱えにしたり。ドイツの風景をイタリア風味で描いた物が素敵とされてたりもしてたらしい。


【第4章】フランス−国家の表象と宮廷文化:ルイ14世とアウグスト強王、金工品による歴史

ヴェルサイユの絢爛豪華なファッションがザクセンのミーハー王(もはや決め付け・笑)の心を捕らえない訳は無い。戴冠式の礼服やダイヤの装身具一式は、全てフランス宮廷風の、目が潰れるような豪華さ。こういう高レベルな真似っこがすぐに出来ちゃうところが凄い。余程お金と情熱があったんだろうな。


【第5章】東アジア−驚嘆すべき別世界:マイセン磁器とアジアの手本、ドレスデン漆家具と中国趣味(シノワズリー)

ミーハー王の情熱は、ついに東アジアまで及ぶ。日本や中国の磁器を熱心に収集し、現代の著作権とかプライドとかの概念からするとポカーンと開いた口が塞がらないような、露骨な模造品や複製を作りまくり。しかしその熱意がついに結実して、ついに自国でマイセン磁器を完成させるに至る。
円熟してからのマイセンはまだ良く知らないけど、始めの頃の、東洋の磁器とそれを参考にした作品を比べて見ると、逆に元の東洋磁器の美しさや完成度にうっとりとなる。世の東西を問わず、この頃の費用に糸目を付けない贅沢な芸術は、突き抜けていたと思う。絶対君主が居て、それに仕える膨大な民が居た時代、一箇所に富が集中した時代だからこそ、こうした芸術って極まるのかな。現代は現代で、実用の美学や、ミニマリズムといった、新しい価値観の芸術は広がったけれども。そういう意味では、日本のわびさびや空間の美って、ある意味進んでたよな〜。その辺も西洋には新鮮だったんだろうな。


【第6章】オランダ−作られた現実:レンブラントレンブラント受容

なんでオランダなんだったっけ・・・。とにかく、イエズス会として世界を回ってたオランダを通じて、日本の美術品とかも入手していたらしい。


【第7章】ドイツ−ロマン主義的世界観: ロマン主義的風景画の手本と先駆

このあたりになると、もう余りのボリュームに疲労困憊で、よく覚えていない(苦笑)。 近世になってやっとドイツ独自のと言える絵画手法が出来たらしい。色んな歴史背景もあったんだろうけど、過去のザクセン公国のゴージャスぶりとは遠い、シックでストイックな印象の絵画達。私の中で現代ドイツのイメージとは近いな。まぁ、ザクセン公国の頃は特別だよな。





現代のドレスデンは2004年に世界遺産に登録され、2006年の建都800年を迎えるにあたり、歴史建造物の大改修が行われているそう。旅行のパンフも置いてあった。ドレスデンに連泊して、12の美術館をしらみつぶしに堪能ツアー・・・いいなぁ!いつか行きたいな〜。

この上野の国立西洋美術館を囲む外観もまた気分を盛り上げてくれた。
うす曇りのぼんやり紗がかかったような陽光の中、見事な枝ぶりの樹木やモクレンが生い茂り、ロダンの彫刻「地獄の門」や「考える人」のレプリカに囲まれた石畳の上で眺める夕景は、最終章で観たドイツロマン主義の絵画と、驚く程似ていた。
イヤホンガイドも初めて試してみて、大変参考になる良い物と知った。友によると、他の美術館では説明もお粗末で価値の薄いものもあるらしいけど。

残念だったのは、ミュージアムショップや食堂が小さかった事。関連図書も分厚くて高価な図録だけ。もっともっと色々ドレスデンザクセン公国について知りたかったので、近場に取り揃えてあれば有難かったのに。江戸東京博物館Bunkamuraみたいに、もっと色々やればいいのになー。