七月大歌舞伎 7/31夜(千秋楽)

一部と二部の落差が余りにも大きかったので、評価は2つに分けた。どちらも込められた想いの深さや芸術性という点では十ニ分なのだけど、日々に疲れた私と母は、お気楽極楽な楽しい歌舞伎観劇を欲していたというところで、そのへんの観点からの評価をば。


■一部:山吹
評価:☆☆☆★★

いやはや、このシュールさはどうしたものか・・・(滝汗)。ぶっちゃけて言おう。こんなに辛い歌舞伎観劇は初めてだった(苦笑)。
それは、私がこれを観るにふさわしい態勢で無かった事が原因だというのは分かってる。解りやすい娯楽歌舞伎を見飽きた通人や、泉鏡花をこよなく愛する見識の高い方には、この演目はきっとたまらないものがあるんだろう。


最低限の舞台装置。気が遠くなる程に緩慢な、喋りのテンポと物語の展開。その殆どが、私にとっては、正直どうでもいい内容(汗)。いや、美学が流れているのは分かる。とても繊細で微妙な言葉のやりとり。その奥に浮かび上がるものを察し、心を澄まして味わうべきものなのだという事も感じる。でも、ごめんなさい。連日観劇や母とのお喋りに疲れた私には、無理だった。も〜の〜すごく、イライラした。もういいから、さっさと話を進めんかい!と何度叫びたくなった事か。


話はジワジワとひたひたとグイグイと、いつの間にかエライ変な展開になってるし。ウジの沸いた魚に情けをかけて持ち歩く、乞食のような人形遣い。彼に懇願されて、破れ傘で激しく折檻してる内に自我を悟るかのような子爵婦人。そんな彼らにドン引きしつつ、なかなか離れられない洋画家。このシュールな構図はキライじゃない。けれど、多分40〜50分くらいはあっただろうこの物語。この緩やかな展開に付き合うのが、本当に苦しかった。これが15分に縮められていたら、私もそのエキセントリックさを愉しめたんだろうな。
私もまだまだ修行が足りんわ。母も周りも寝てたけども(苦笑)。何だかエライもんを観たという変な興奮は、確かに残ったよ。




■二部:天守物語
評価:☆★★★★

もうこれはお馴染み。安心、安全、確実の娯楽作。先ほどと打ってかわって、流れるようなセリフ回し。軽妙洒脱なやりとり。豪華絢爛な衣装。夢があってロマンがあって。世にも美しい2人の絵面! あああ、胸がすく(笑)。これよこれ、求めていたものは。富姫玉三郎はもちろんの事、昼にも好演している春猿の亀姫もかなり良い。白鷺城に住まう妖怪達の、恐ろしくも面白い事! やっぱり名作はいいよ。ああ〜ホッとする(笑)。


そして、待ってましたのエビちゃん図書の助ご登場! これが意外と言っては失礼ながら、なかなか良い。やはり型の中に入ると、良さが生きてくるのね。富姫と図書の助が見つめ合うところとかドキドキしちゃった。ん〜美しいって素晴らしい。 
美しいと言えば、玉三郎の衣装だよ!! 薄めの茶に金ラメのラインが浮き上がる豪華な打ちかけ。パステルの紫・ピンク・水色などの色が詰まったあじさい柄が一面に刺繍され、非常にハイセンス。いつも「これぞ!」という、溜息の出るような衣装を見せてくれる。ありがたやありがたや。本当に寿命が延びまする。


カーテンコールは3回?4回だったかな? スタンディングオベーションもあり。千秋楽ともあって、大変な盛り上がりだった。私達にとっては連続4公演の贅沢な観劇。さんざん文句も言ったけど、終わってみれば、バリエーションに富んだ貴重な観劇だった。また玉三郎の「想い」に触れた気がする。