ティアラ展 〜Bukamuraザ・ミュージアム 1/28

評価:★★★★★

『プリンセスの輝き ティアラ展 〜華麗なるジュエリーの世界〜』

http://www.bunkamura.co.jp/shokai/museum/lineup/07_tiara/index.html


まさにジュエリー・オブ・ジュエリー。これ以上女性の夢が詰まった象徴ってあるだろうか。ため息と興奮に血が騒いで瞳孔が開く。この高揚感はもう、抗えない本能に属するものだと思う。
ティアラを嫌いな女性はこの世の中に居ない、と断言する。どんなに信仰やイデオロギーで抑えられていたとしても、実際問題この手に欲しいとは思わないとしても、ただ単純に、この夢の泉のような眩い輝きを目の前に見て、心を微動だにしない女性はもう女性では無い、と私は思う。


冠ひとつから、それを付けた女性ひとりひとりの髪型、顔かたち、ドレス、階級、歴史、全てがあぶり出しのように浮かび上がって来る。悲劇の王妃や、アメリカの富豪令嬢や、ロシアの血塗られた財閥の妻や、世紀末の女優や・・・さまざまな高貴で華麗な女性が、そこに居るかのように見えてくる。想像が果てしなく広がる。


これはティアラだからこそだ。ネックレスでもイヤリングでも指輪でも、ここまで上から下まで、その女性の全身の様子や時代背景が浮かぶものは無い。逆に言えば、全身をトータルで全て一からデザインしないと、こんなティアラは付けられない。そうやって、髪型からメイク、ドレス、ほかの宝飾品、靴など全てを、その職人ごとトータルオーダーできる環境に無ければ、こんなティアラは作れない。その時点で既に、相応の財力が無いと無理という事になる。


ひとくちにティアラと言っても、こんなに様々の様式やイメージがあるものなんだな〜。
ティアラの起源は古代エジプトに始まり、古代ギリシャでは月桂樹の冠として高貴なる者の神性を象徴する物となり、今日のようなジュエリーになっていったそう。 有名な絵画にもなっている、ナポレオンが戴冠式で被った金の月桂樹の冠は、当時発掘されたポンペイの遺跡から古代ギリシャ文化ブームが起こったせいだとか、当時のファッション史もリアルに感じられた。


ポンパドールが流行ればそのお団子の周りに差し込む小さなティアラが流行したり、断髪のモガの時代にはバンドーと呼ばれる額にぴったり巻くような形状の物とか、エグレットと呼ばれる鳥の羽をあしらった物が出てきたり。 それぞれの時代において、それより以前のレトロ趣味や東欧趣味が入ったり、もしくは富を強調せねばならない非貴族がとにかく財宝のゴージャスさを競ったり。ロシアのまるで帽子のように面になった密度のあるティアラは、さぞかしまた宝石で覆われた重厚なドレスの皇女が付けたんだろう。
使うモチーフの植物や形状にも、これでもかという謂われや象徴が盛り込まれていて、その一族や国や文化が凝縮され、大変興味深かった。


100点にも及ぶティアラの名品群からどれが一番好きか、欲しいかと問われても、いくら考えても決められない。 
現物以外に、完成品を作る前に銀とすずの合金に塗装を施した精巧なモックアップが100点くらいズラ〜っと壁面に並んだ所があった。その前に腰掛けて、その1点1点について、それをつけたお姫様の姿を想像して、いくらでも時間が過ぎる。そして、気付けばひとりでにニヤ〜っと頬が緩んでいる。乾きかけた夢想の泉からこんこんと湧き上がる感覚。美しいものを見ると若返る、寿命が延びる、というのは真実だと思う。